損害の請求方法Q&A
損害の請求方法の選択(Q&A)
Q1:私は先日,自動車を運転中,後ろから追突をされ,軽い怪我をしてしまいました。この事故の損害について,相手方から賠償をしてもらいたいのですが,どのように請求したら良いのでしょうか。
A1:交通事故の損害賠償を請求する場合,直接連絡をとって交渉する他に,裁判所での訴訟や調停を利用することもあります。また,交通事故の紛争解決のための民間の紛争解決手続き(あっせん,調停,仲裁など)も充実しています。多数の手段がありますので,それぞれの特徴を知り,自分に合った方法で解決を図りましょう。
Q2:相手方と直接交渉をするのが最も簡単だと思うのですが,直接の交渉の場合の長所,短所は何でしょうか。
A2:確かに,相手方と直接の交渉をするのが,最も簡便な方法です。さらに,当事者が自ら納得して合意するものですので,迅速で柔軟な解決が図られ,感情的なしこりも残らないことが多いです。
他方で,交渉の場合,相手方が保険会社ですと,交渉力に差が出やすく,相手のペースで話を進められてしまう可能性があります。また,当事者間の合意だけですと,合意後に実際に支払われなかった場合,すぐには強制執行ができないという問題もあります。
Q3:相手方と交渉をする際の注意点はどのようなことでしょうか。
A3:まず,相手方が誰であるのかをきちんと確認することです。また,話し合いの場ですぐに合意をせずに,一旦持ち帰って検討することも場合によっては重要です。交渉の場での泣き落としに流されて合意をしてしまい,適切な賠償が受けられなくなることもありますので,あくまで冷静に話し合いをしましょう。
合意をした場合でも,当事者間の合意だけでは,すぐには強制執行ができません。合意書を公正証書にするなど,強制執行がしやすい書面にする工夫をすべきでしょう。
Q4:どういう場合に,任意交渉を利用するのが良いでしょうか。
A4:相手方がはっきりしていて,交渉がしやすく,迅速,柔軟な解決が図れるような場合には向いているでしょう。金額が小さい物損などの場合にも,費用対効果を考えれば,交渉が向いているかもしれません。
他方,事案が複雑であったり,相手との対立が大きかったりする場合には,任意の交渉では解決が困難となります。この場合,当初は交渉を行っても,合意ができなそうであれば,途中で他の方法を考えた方が良いと思います。
Q5:交渉を開始するタイミングというのはあるのでしょうか。
A5:特に決まってはいません。もっとも,あまりに早く交渉を開始しても,治療中である場合などは,損害額が確定しておらず,結局,合意ができないということもありますので,損害が確定したか,その見通しがたってからの方が良いでしょう。
もっとも,治療費については,早い段階で交渉をすると,加害者側の任意保険会社が直接支払ってくれる場合がありますので,場合によっては,早めに問い合わせると良いかもしれません。また,事故を起こしたことで刑事処分が見込まれる場合には,当事者間の示談状況が加味されますので,加害者側であれば,早めの交渉をして,被害回復に努める必要が出てきます。
交通事故の損害賠償は,損害及び加害者を知った時から3年で時効になってしまいますので,治療が長期にわたりそうな場合には,その点にも注意をしておく必要があります。
Q6:交通事故の交渉の代理を依頼したい場合,誰に頼めば良いのでしょうか。
A6:まず,任意保険に加入している場合は,自身が契約している任意保険会社に示談交渉の代行を依頼できるのが一般的です。実際,加害者側になった場合には,保険会社に交渉の代行をお願いすることが多いでしょう。被害者側の場合は,弁護士又は司法書士に依頼することになります。もっとも,司法書士が交通事故の交渉代理を行えるのは,当該司法書士が簡易裁判所の代理人資格を有しており,かつ,請求額が140万円以下の場合に限られます。それ以外の場合は,弁護士に依頼しなければなりません。また,行政書士については,そもそも交渉代理を行うことは認められていませんので,交渉の代理を依頼することはできません。
任意保険に加入してない場合は,示談交渉は,自分で行うか,弁護士又は簡易裁判所の代理人資格を有している司法書士に依頼することになります。加害者側の場合,任意保険に加入していないと,非常に高額な債務を負うことになる可能性がありますので,対応を含めて,弁護士等に相談した方が良いでしょう。
Q7:裁判所での調停とはどのような手続きで,どのような長所,短所があるのでしょうか。
A7:交通事故についての裁判所の調停は,簡易裁判所の民事調停という手続きの中で行われます。簡易裁判所の民事調停とは,中立的な調停委員2名と審判官(裁判官)1名が間に入り,当事者の言い分を聞きつつ,話し合いによる解決を進めていく手続きです。基本的には,調停委員が双方の話を順番に聞いた上で,話し合いの間を取り持ってくれるので,当事者間の直接の交渉よりも話し合いが進みやすく,かつ訴訟よりも柔軟に解決が可能です。また,調停委員を間に介して話をすることができるので,冷静に話ができ,プライバシーが守られる点も長所です。場合によっては,相手方と顔をほとんど合わさずに手続きを進めることも可能です。さらに,調停で合意ができた場合には,その合意の調書を利用して,強制執行をすることも可能になります。
もっとも,調停はあくまで当事者間の話し合いがベースになりますので,当然,合意ができない場合もあります。その場合には,それまでの調停手続きが終わった後に,再び訴訟を提起しないといけません。
Q8:調停を利用するのはどのような場合が良いでしょうか。
A8:弁護士等に依頼をせずに自分でやりたいが進め方などに自信がないという場合には,調停の利用が適しています。また,直接の任意交渉で合意をした場合でも,調停で,初回にすぐ調停を成立させて終わらせれば,多くの手間をかけることなく,合意内容を調停調書にすることができますので,将来の強制執行に備えることができます。
他方,当事者間の対立が激しく,合意が困難であると見込まれる場合には,調停での解決は困難ですので,他の手段を採るべきでしょう。
Q9:訴訟の場合,どのような長所,短所がありますか。
A9:裁判所による訴訟では,証拠に基づく詳細な事実認定がされることが最大の長所です。交通事故では,双方で意見が食い違うことが少なくありません。そのような場合に,訴訟であれば,裁判所が証拠に基づいて判断をしてくれますので,対立のある事案の解決には適した方法でしょう。また,裁判所での損害の算定に用いる基準と保険会社が独自に用いている基準は異なりますので,一般的には訴訟によって裁判所での基準に従って損害額を認定した方が,受けられる賠償金額は高くなることが多いです。さらに,判決や裁判上の和解であれば,相手が支払わなかった場合に強制執行することができる点も,重要な長所です。
他方,短所として,訴訟では,訴訟の対象となった争点だけが問題となりますので,判決の場合には,あまり柔軟な解決はできないとの点が挙げられます。また,時間や費用がかかってしまう点や,場合によっては公開の法廷において尋問を受けないといけないという心理的負担も,訴訟の短所かもしれません。
Q10:訴訟を利用するのは,どのような場合が良いのでしょうか。
A10:当事者間に対立の激しい争点があるような場合には,訴訟で解決をするのが良いでしょう。特に,当事者間の過失の割合や後遺症の等級認定等については,認定の内容次第で,損害賠償の金額に大きな影響がでますので,そのような争点に大きな対立があるような場合には,訴訟が向いています。
他方,訴訟は,公開法廷で行われますので,尋問の際には,公開の法廷で当時の状況を証言したりする必要が出てきたりします。また,当事者間の対立が大きいと,訴訟に何年もかかってしまうこともあります。このような費用や労力を考えると,損害の小さい事故にはあまり向いていないといえるでしょう。
Q11:民間の調停手続きにはどのようなものがありますか。
A11:民間の調停手続きには,以下のようなものがあります。手続きの流れや費用の有無,主催者等に違いがあります。
□公益財団法人交通事故紛争処理センターの調停
□一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構
□そんぽADRセンター
□日本弁護士連合会の交通事故相談センター
□各弁護士会の紛争解決センター
Q12:公益財団法人交通事故紛争処理センターの調停とは,どのようなものでしょうか。
A12:これは,損保会社が中心となって設立された公益財団法人交通事故紛争処理センターが主催するもので,弁護士が間に入り,法律相談を行い,当事者間の和解のあっせんや審査が行われる手続きです。
費用がかからないことや,損保会社は,ここでの審査結果を必ず受け容れる形になっているので解決の可能性が高いことが長所です。もっとも,相談ができる場所が全国に10箇所しかないことや,相談の日時が決まるまでに数ヶ月かかってしまうこともあるようですので,急いでいる人には向かないかもしれません。
Q13:一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構による紛争解決手続きとは,どのようなものでしょうか。
A13:これは,自賠責保険・共済の支払に係る紛争の公正な解決を目的として設立された一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構が行う手続きです。相談事業及び調停事業を行っています。
この手続きも費用はかかりません。さらに,電話相談も無料で可能です。また,調停手続きは,郵送のみで審査が行われるため,自身が出て行く必要がないのが大きな特徴です。直接出て行けない事情があるような場合には向いている手続きです。この手続きにおいても,保険会社は調停結果を必ず遵守しますので,その点も解決に資する制度です。
ただし,本件は,自賠責保険・共済の支払に関する紛争の解決を行う手続きですので,交通事故の全てについて解決できるとは限りませんので,その点には注意をする必要があります。
Q14:そんぽADRセンターの手続きとは,どのようなものでしょうか。
A14:これは,一般社団法人日本損害保険協会が行う紛争解決手続きです。この手続きも,他の手続きに類似した相談や和解のあっせん等を行いますが,手続きを行う場所が全国に2箇所しかない点などの事情もあり,この手続きの利用は,他の手続きに比べると非常に少なく,全国で年間に数十件程度のようです。
Q15:日本弁護士連合会の交通事故相談センターの手続きや各弁護士会の紛争解決センターの手続きとは,どのようなものでしょうか。
A15:日本弁護士連合会の交通事故相談センターの手続きは,日本弁護士連合会が主催するもので,無料の法律相談や弁護士が間に入っての示談あっせんや審査が行われます。全国160箇所以上の相談場所があることや,当事者の親族なども相談できることなどが特徴です。他の紛争解決手続きと比較すると,相談場所が非常に多いのは大きな長所です。示談あっせんは,弁護士が間に入って示談のあっせんを行い,3回以内での合意を目指す手続きです。
各弁護士会の紛争解決センターの手続きは,各都道府県にある弁護士会(〇〇県弁護士会等)がそれぞれ独自に行っている手続きであり,その内容は,各弁護士会によって異なります。費用の有無も様々ですので,詳細は,各都道府県の弁護士会にお問い合わせください。
Q16:民間にもいろいろな紛争解決手続きがあることがわかりましたが,どのように使い分ければ良いのでしょうか。
A16:いずれも,交通事故に詳しい主催者が公正な立場で紛争解決を図る手続きですが,一般的には訴訟によるのが最も高額な損害の認定になることが多いかと思います。ただし,過失状況によって結論は大きく変わりますし,訴訟を選択すると,手続きが終了して損害賠償を受けられるまで,期間が長期にわたる可能性もあります。そのため,当事者間の対立の状況の有無,解決までの時間的見通し,手続き上の使いやすさ等も,手続きを選ぶ一つの大きなポイントになるかと思います。
具体的事例において,どの手段が最も事案の解決に資するかは,事案や当事者の要望次第ですので,一概に何とも言えません。どの手続きを選択するかについても,弁護士に相談することをお勧めします。