示談等に関する諸問題Q&A

示談等に関する諸問題

Q1:交通事故の被害に遭い、加害者との間で示談が成立しましたが、その後、この示談の効力を否定することはできますか?

A1:場合によっては、示談の効力を否定することができます。最高裁も示談の効力を否定することができる場合を認めています(最判昭和43年3月15日)。

Q2:最高裁の事案は、どのような内容ですか?

A2:交通事故で、左前腕複雑骨折により全治15週間の傷害を負い、事故後10日内に、示談金10万円で示談をしましたが、示談後、再手術を余儀なくされ、左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が生じ、その損害額は77万円余というものです。

本件は、昭和32年4月に、被害者が交通事故に遭った事案で、当時の10万円は、現在の約57万円相当の貨幣価値があり、また、損害額77万円は、現在の約440万円相当の貨幣価値があります(消費者物価指数による貨幣価値の換算によります)。

Q3:最高裁は、どのような場合に示談の効力を否定することができると言っていますか?

A3:「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合、その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致したものとはいえない」として、示談当時予想できなかった不測の損害については、賠償請求が認められる場合があるとしています。

Q4:示談の効力を否定することができる場合があるとして、示談の効力を否定し、示談後に発生した拡大損害の賠償義務を認める法律構成には、どのようなものがありますか?

A4:大きく分けて、4つの法律構成が考えられます。

1つ目は、示談条項を文字どおり解釈すると極めて不当な結果をもたらすときは、その文言の表示にしたがった法的効果を付与しないとする構成です(例文解釈説)。

2つ目は、示談の当時当事者が確認しえなかった著しい事態の変化が生じたときは、示談を解消させる趣旨の条件が付されていたとして示談の拘束力を排除する構成です(解除条件説)

3つ目は、示談当時予想できなかった後遺症等が発生した場合、示談は要素の錯誤(要素の錯誤とは、その錯誤がなかった場合には、その意思表示が行われなかったような重大な勘違いをいいます。)により無効であるとして示談の拘束力を否定する構成です(錯誤無効説)。

4つ目は、示談の拘束力を限定的に解し、示談当時予想できなかった後遺症等による損害は別損害としてその請求を認める構成です(限定的解釈説)。

そして、実務で用いられている法律構成は、もっぱら3つ目の錯誤無効説と4つ目の限定的解釈説です。

Q5:では、錯誤による無効が認められた裁判例にはどのようなものがありますか?

A5:被害者は、再度の休業期間の休業損害を認めてもらうことが示談の関心事であったが、自賠責保険金に含まれている等の示談担当者の不適切な説明を信用して示談に応じたとして、錯誤による示談の全部無効を認めたものがあります(名古屋地裁平成12年9月1日判決)。

また、示談担当者が自賠責保険金額の内容について具体的に説明せず、被害者が、後遺障害の損害額としては自賠責の保険金額しか認容されないと誤信して示談を締結したとして、錯誤による示談の全部無効を認めたものがあります(千葉地裁松戸支部平成13年3月27日判決)。

Q6:示談の拘束力を限定的に解し、追加請求が認められた裁判例にはどのようなものがありますか?

A6:交通事故により、6歳の子が後遺障害等級併合11級の認定を受けた件で、事故の約3年5か月後に既払金のほか500万円の支払約束と「併合11級以外の後遺障害が成長過程で発生した場合は、医師の診断に基づき自賠責損害調査事務所の認定を受け、自賠責保険から保険金を受領し解決する」ことを内容とする示談が成立したが、事故の約13年後(当時19歳)に生殖器の著しい障害について症状固定し、同障害について後遺障害等級9級16号、併合8級の認定を受けたという事案があります。

この事案で、裁判所は、示談契約は有効であり、これにより示談時までに症状が固定した後遺障害(従前後遺障害)を前提とする損害賠償請求権は消滅したが、従前後遺障害とは別の後遺障害に係る損害賠償請求権は放棄されていないとして、102万円余を認容したものがあります(大阪高裁平成23年3月17日判決)。

 

 

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