事故時の当事者の義務Q&A

目次

交通事故発生時の当事者がとるべき措置について

Q1:自動車を運転していて、交通事故に遭ってしまいました。当事者として、まずしなければならないことは何ですか。

A1:交通事故の当事者である運転者としてしなければならないこととしては、次の4つが挙げられます。

① 緊急措置(運転の停止と状況の確認及び負傷者の救護)

② 警察への事故報告

③ 保険会社への通知

④ 事故状況の調査と証拠の収集・保全

なお、①②は、交通事故により人が死亡、負傷したり、物が壊れたときに、その事故の当事者である運転者やその他の乗務員が直ちにとらなければならない措置として、道路交通法(以下、「道交法」といいます。)が、定めているものです(道交法72条1項)。

Q2:道交法上の①緊急措置の義務と②事故報告の義務は加害者も被害者も負うのですか。

A2:道交法72条1項では、①②の義務を負う者として「当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員」と定めています。

また、道交法の目的は「道路における危険防止、交通の安全と円滑、道路の交通に起因する障害の防止」(道交法1条参照)にあります。ですから、加害者・被害者の区別なく、たとえ相手方が一方的に悪い場合であっても、これらの義務を負うことになります。

Q3:道交法上の義務のうち、①の緊急措置の義務とはどのようなものですか。

A3:緊急措置の義務の内容としては、(ⅰ)運転の停止、(ⅱ)負傷者の救護、(ⅲ)道路における危険防止、の3つが挙げられます(道交法72条1項前段)。

これらに違反すると、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(違反した者の運転により人が死傷した場合は10年以下の懲役又は100万円以下の罰金)という刑罰が科されます。

Q4:何かにぶつかったような気はしたものの、人を死傷させたり、物を壊してしまうような事故とは思わずにその場を立ち去ってしまった場合でも処罰されるのですか。

A4:判例では、人の死傷や物の損壊についての「未必的な認識」がある場合に限り、緊急措置の義務を負うとされています*1。

しかし、実際には何かにぶつかったと思ったら、すぐに停止して状況を確認すべきでしょう。

*1最判昭和40年10月27日

Q5:自分が被害者の場合、(ⅰ)で運転を停止した後、どのようなことを確認すべきですか。

A5:自動車事故で人を負傷させたり物を壊した場合、加害車両の運転者だけではなく、その運転者の雇い主、加害車両の所有者など、その加害車両を運行の用に供している者全てが「加害者」として損害賠償をする義務を負います。

ですから、被害者としては将来の損害賠償請求に備え、加害者を特定しておく必要があります。

具体的には、以下の事柄を確認し、必要であれば運転者の免許証や加害車両の自動車検査証、ナンバープレート等を携帯電話のカメラなどで撮影しておくと良いでしょう。

・加害車両の運転者の住所・氏名

・加害車両の登録番号

・加害車両の所有者の住所・氏名

・運転者と所有者の関係

・運行目的、加害車両の普段の使用状況

・自賠責保険は任意保険の保険会社、契約者名、契約番号、契約内容等

Q6:(ⅱ)負傷者の救護義務を果たしたといえるためには、どの程度のことをすればよいのですか。

A6:まず、十分に負傷の有無・程度を確かめ、たとえ軽傷であっても、被害者を医師の治療ができる状態に置くか、救急車を呼んで救急車が到着するまで負傷者に付き添う等しなければなりません。また、医師や救急隊員に、事故時の様子や負傷者の状態を説明する必要もあります。これらは全て自ら行なう必要があり、他人任せにしてはいけません。救護義務を怠ると、いわゆる「ひき逃げ」(救護義務違反)として、厳しく処罰されます。

具体的には、本人の申し出に従い、重傷の負傷者を自宅に送り届けただけの場合*2、第三者が呼んだ救急車に負傷が運び込まれるときに何も手助けせずに傍観していた場合*3、負傷者を抱き起こして通行人に救急車の手配を頼んだもののその到着前に現場を立ち去った場合*4、いずれも救護義務違反とされた裁判例があります。

(*2札幌高判昭和41.10.6 *3仙台高判昭和46.6.3 *4東京高判昭和57.11.9)

Q7:(ⅲ)道路における危険防止措置とは、どのようなことをすればよいのですか。

A7:現場を危険な状態のままにしておいたために引き続き交通事故が起こることがないよう、道路上の危険を取り除きます。何をすべきかは事故の規模や道路の状態、天候、時間帯など具体的な状況によりますが、例えば、事故車両や積荷等が道路上に放置されていて交通に危険を及ぼしている場合は、速やかにこれらを移動する必要があります。ただし、危険防止措置をとる場合には、後に事故現場の状況が分からなくならないよう配慮することも必要です。

Q8:道交法上の義務のうち、②の事故報告の義務とはどのようなものですか。

A8:警察官が現場にいるときはその警察官に、いないときは最寄の警察署や派出所の警察官に、直ちに以下の5つ事項を報告しなければなりません(道交法72条1項後段)。

・事故が発生した日時と場所

・死傷者の数と負傷者の負傷の程度

・損壊した物とその損壊の程度

・事故車両の積載物

・その事故について講じた措置

Q9:上記5つの事項以外にも、警察官に聞かれたことは報告しなければならないのですか。

A9:道交法上、報告義務があるのは上記5つの事項だけです。これら以外についてまで報告する義務はありません。

例えば運転者の住所、氏名、事故の原因などは報告した者の刑事責任に関する事項ですから、それらは警察が刑事手続に従って捜査すべきであって、あえて自ら進んで報告する義務はありません。

Q10:「直ちに」報告するとは、どのような意味ですか。

A10:事故発生後すぐに、または①の緊急措置を行なったあとすぐに、という意味です。帰宅後や、他の用事を済ませてからでは「直ちに」とはいえません。

Q11:事故現場にたまたま警察官がいた場合には、事故報告はしなくてよいのですか。

A11:事故現場にたまたま警察官がいて事故の発生を知り、必要な措置をとったとしても、それにより報告義務がなくなるわけではありません。

Q12:事故報告を他人に依頼することはできますか。

A12:できますが、自ら直接報告したのと同様の報告がされるようにしなければなりません。

例えば、第三者に警察への連絡を頼んだだけで、実際に連絡をしたか確かめずに立ち去った場合、報告義務違反となります*5。

(*5大阪高判昭和56.8.27)

Q13:④事故状況の調査と証拠の収集・保全のためには、何をすればよいのでしょうか。

A13:道交法上の義務ではありませんが、加害者、被害者いずれであっても、事故により発生する民事上、刑事上の問題に対処するために、事故状況を調査し、証拠を収集・保全しておく必要があります。

具体的には、(ⅰ)事故現場の保全、(ⅱ)事故状況の記録、(ⅲ)目撃者や相手方など関係者の供述の記録、が重要です。

(ⅰ)事故現場の保全については、危険防止のための措置が終わったら、警察の実況見分が終わるまで現場はできるだけそのままにしておきましょう。

(ⅱ)事故状況の記録については、負傷者の救出や危険防止のために車両や散乱した積荷を移動するなど、現場に手を加えた場合でも、できる限り元の位置や状況は確認・記録しておきましょう。

(ⅲ)関係者の供述については、時間がたつと記憶が曖昧になってしまうため、できる限り速やかにメモや録音をしておくべきでしょう。

Q13:事故状況の記録、といっても何を記録すべきかよくわかりません。

A13:記録するポイントとしては、以下の事柄が挙げられます。写真や図面として残せるよう、メモや携帯のカメラなども活用するとよいでしょう。

・衝突の地点

・衝突の箇所、程度

・負傷者の転倒地点、血痕の位置や形状

・関係車両の位置関係、スリップ痕の位置や形状

・車両の損壊の状態、程度(キズや凹み、塗料の状態など)

・破片や積荷の散乱状況

・事故発生時の時刻、天候

・道路の幅、カーブ、見通し、路面の状態

・交通量や渋滞、などの道路状況

・交通規制の有無

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