物損をめぐる諸問題Q&A

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物損をめぐる諸問題について

Q1. 自宅に居眠り運転の車が飛び込んできて、ガレージに停めてあった車の後部が大きくへこみ、ガレージのフェンスも壊れてしまいました。加害者に修理費用等を払ってもらうことはできますか。

A1. 車の修理代等の他、事故と因果関係があると思われる物の損傷についても、加害者に賠償を求めることができます。ただし、本件のように物の損壊のみが生じた物損事故の場合、人身事故の場合と異なり、自賠法3条ただし書きは適用されません。よって、被害者側で加害者の故意・過失、発生した損害額、因果関係等を立証しなければなりません。

Q2. 今回壊された車は、新車で、まだ納車から1週間しかたっていません。いっそ新しい車に買い換えたいのですが、新車に買い換える費用を支払ってもらうことはできますか。

A2. 実務では、車両が損傷を受けた場合、修理費用の賠償が原則です。裁判例では、新車引渡しから20分後の事故、同じく引渡しから20日後の事故のいずれにもおいても、新車の買い替え費用の賠償を認めませんでした。もっとも、修理が不能なほどに破損した場合には、例外的に代車の購入費用を損害として認めた裁判例もあります。ただ、その場合でも、損傷が激しく、ほとんど全ての部品について取替え、修理を必要とする程度にいたっていることが必要でしょう。また、下取代金(売却代金)が発生した場合には、その金額分が差し引かれます。

Q3. 修理代の見積もりをとったところ、同じ車種・年式・型式・使用状態・走行距離などの中古車を購入したほうが安いことがわかりました。それでも修理代を支払ってもらうことはできますか。

A3. 実務上、自動車に生じた損害については、修理費と車両の時価のいずれか低いほうを賠償すれば足りるとされています。よって、この場合には車両の時価を基準とした中古車の購入費用(事故時の車両の時価相当額-被害車両の売却代金)を請求することができるにとどまり、修理費を請求することはできません。
この点、最高裁昭和49年4月15日判決は、被害車両を売却し、事故当時におけるその価格と売却代金との差額を損害として請求しうるのは、「フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ、被害車両の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるとき」のほか、「被害車両が事故によって、物理的又は経済的に修理不能になったとき」、としており、「経済的に修理不能」とは、修理見積額が当該車両の価格超える場合を指します。
なお、同判決は、交通事故により損傷を受けた中古車の事故当時における取引価格(時価)は、「原則として、これと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価格によって定めるべきである。」としています。
もっとも、被害車両と同種同等の車両を中古車市場において取得することが困難な場合や、当該車両の市場価格より高い修理費を投じても修理して引き続き使用したいという被害者の希望が社会通念上相当である場合には、例外的に修理費用の賠償が認められる、とした裁判例もあります。

Q4. 車を修理に出している間の代車使用料は支払ってもらえますか。

A4. 車両が事故により使用できなくなった場合、代車使用料を損害として請求できる場合があります。
もっとも、代車使用料というだけで無制限に請求が認められるわけではありませんので、注意が必要です。
まず、代車使用の必要性が存在しなければなりません。例えば、電車等の交通機関を利用することで全く不都合が生じない場合や、月に数回、休日にレジャーで使用していたという程度では、代車使用の必要性は認められないと考えられます。
また、代車使用の期間は、原則として客観的に修理に必要な相当期間とされることが多く、だいたい1~2週間程度が通常です。もっとも、外国車のため部品の取り寄せに時間がかかった、加害者が修理代を払わなかったために修理会社から車両の返還を受けられなかった等、事情によっては数か月分の代車使用料が認められたケースもあります。
また、被害車両が高級外車であった場合でも、当該車両と同格の代車を認めるに足りる特別の事情がない限り、1クラス程度下の国産高級車の代車使用料の限度で認められるのが一般的です。

Q5. 私は個人タクシーの運転手ですが、後方から追突されてトランク部分が使用不能になり、修理が終わるまで営業ができなくなりました。修理期間中に営業していれば得られたであろう営業利益相当額を請求することはできますか。

A5. タクシーや営業用トラック等の営業用車両であれば、本来得られたであろう営業利益相当額(休車損)の請求が認められることがあります。
休車損が認められる期間は、代車の場合と同様、修理や買換えに必要な相当期間です。なお、緑ナンバー取得等、営業車両として使用するために必要な手続の期間も相当期間に含まれると考えらます。
休車損の算定方法は、1日あたりの売上高(事故前の半年~1年間の平均値をとることが一般的です。)からガソリン代等の諸経費を除き、これに相当な休車期間を乗じて算出します。

Q6. 私は冷蔵設備を自家用トラックに備えつけ、食品の配送車両として使用していましたが、このような場合でも休車損の請求は認められますか?

A6. いわゆる緑ナンバーではない、自家用営業車であっても、一定の設備を備える等直ちに代替の車両を調達することが困難な場合には、休車損が認められると考えられます。

Q7. 経営する店舗に車が突っ込んできたため、改修工事期間中、営業を休まざるを得ませんでした。休んでいる間の損害について請求することはできますか。

A7. 車の損傷自体から生じた営業上の損害以外でも、事故と相当因果関係が認められる営業上の損害については損害賠償請求が認められることがあります。もっとも、A1で述べたように加害者の責任や損害額については、被害者が立証しなければなりません。

Q8. 玉突き事故で後方から追突され、車両後部が損傷しました。修理により一応元通りにはなったものの、事故歴のある車ということで、将来の売却や下取りの際には評価額が下がると思います。このような評価損の賠償を請求することはできますか。

A8. 事故歴のある車両について、修理により機能的にも外見的にも支障が残らず、耐用年数の低下等もなかった場合でも、評価損の賠償を認める裁判例のほうが多いようです。これは、中古車を購入する際、事故歴のある車とない車とでは大多数の一般人は前者を避けて後者を選ぶため、事故歴があること自体が交換価値の下落を招くことは経験上明らかと考えられるためです。
とはいえ、評価損は、将来下取りに出されて初めて現実化する予測の問題であるため、その評価の基準をどのように考えるかが問題となります。裁判例では損傷の程度、修理の内容、修理の額等を勘案しつつ、修理費を基準にその30%程度を評価損とするものがするものが多いようですが、中には10%や100%といった評価損を認定したものもあります。

Q9. 私は事故により大切な愛車を傷つけられ、大変な精神的苦痛を受けました。よって加害者には修理代に加え、慰謝料も請求したいのですが認められますか。

A9. 原則として、認められません。裁判実務では、物的損害しか生じていない場合、そのことについての精神的苦痛に対する慰謝料が認められるのは極めて例外的な場合に限られます。これは、生じた損害が物的損害のみである場合、適正な損害賠償がされれば、物的損害に伴う精神的苦痛も含めて損害は回復されたと考えられているからです。

Q10. それでは、交通事故では、どのような場合に例外的に物損に対する慰謝料が認められるのでしょうか。

A10. 裁判例では、霊園内の墓石等に車両が衝突して墓石が倒壊し、骨壷が露出する等した事案で、墓地等が先祖・故人の眠る場所として通常その所有者にとって強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性を重視し、10万円の慰謝料を認めたものがあります。
また、交通事故により飼い犬に重い後遺症が残った事案で、飼い犬は飼い主との交流を通じて、家族の一員であるかのように飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないことは公知の事実であるとして、約27万円の慰謝料を認めた裁判例もあります。
このように、目的物が被害者にとって格別の存在であることについて一般的に争いがなく、その侵害行為が被害者の特別な愛情や、精神的な平穏を強く害するような特段の事情がある場合に限って、物損に対する慰謝料は認められうるといえます。この点、Q9に関していえば、車に対して家族同様の愛情を持っていたとしても、それが「一般的に争いがない」とまではいえないでしょう。
もっとも、ペットについて慰謝料を認めた裁判例はいくつかあるものの、いずれも愛玩動物であることのみを理由としているわけではなく、加害行為の悪質さや、加害者の不誠実な態度等も考慮して慰謝料が認められていることには注意が必要です。
なお、車両が民家や店舗に突入した事故につき、人命に対する重大な危険を生じさせた事案や、加害者が責任逃れに終始した事案において、慰謝料を認めた裁判例もあります。

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